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その人は、毎週休みのたびに病室を訪れてくれた。
最初の入院を乗り越え、辛い3年間の外来治療が終った頃,私は看護学校に行く夢は諦めたものの
新しい仕事を見つけ就職しその時期にその人と知り合い恋に落ちた。
その当時私には高校時代から交際をしている彼がいる
にもかかわらず周囲の反対にも耳を貸さず私はその人を追いかけた。
白血病の告知こそされてはいなかったが,私は雲行きの怪しい自分の人生を
薄々感じていたので,その恋への情熱は半端なものではなかった。
私が大病をしている事も知った上で交際は始まり,その時の私は
恐らく人生の中で一番輝いていたのではないかと今は思う。
彼は病気の再発を繰り返す私をいつも励まし寄り添ってくれた。
不安に思う日々の心の暗雲を,いつも満天の笑顔で照らし続けてくれたのだ。
でも,彼の笑顔の胸のうちはとても複雑な思いで占められていたのだけれど。
・・・3度目の入院治療の途中で私は,重症の,心不全を起こし中途半端な治療のまま退院する事になった。
それ以上強い治療は望めなかったのだ。
「今度再発したら,きっと無理でしょう。恐らく半年後には再発します。
今,少し落ち着いている時をどうか大事にして下さい」・・・
主治医のその言葉、私にある決意をさせた。
荷物をまとめ家を出る私を,両親はもう止めはしなかった。
彼は職場の寮を出て二人は潮の匂いの風が吹く街の小さな部屋で暮らし始めた。
いろんな物を二人で選び揃えていく。
二人で行く休みの日のスーパーへの買い物。
誰もが皆、普通にする事がこの時の私には人生最大の喜びに感じられたが,
この先に待ち受ける悲しい別れを振り払うように,
がむしゃらに心不全で弱りきった身体で部屋の掃除をし買い物に出て行き,
深夜遅く帰る彼を待ち続け一緒の時間を楽しく過ごす為に体が苦しくても自分を繕った。
彼の仕事は調理師で小さなお店のオーナーを任されていた。
私が寝込む時は休憩時間に戻り私に食べさせる食事を届けてくれ休みにもいろんなものを作ってくれた。
今でもその料理の味は忘れない少し切ない味だから。 ‘どうか神様見逃して!’
祈る想いも空しく白血病の再発は訪れた。私のすべてが粉々に崩れ落ちてゆくのが見えた。
おそろいの食器もテーブルの花も夢に見た花嫁衣裳も。そう,何もかもが。
ベッド待ちで病院から連絡が入るまでの時間は悪夢にうなされる毎日だった。
いつも気丈に振るまい友達の前で泣いたことの無い私が,
初めて自分を捨てて友達にすがりついて泣いた。
入院の荷物をまとめ部屋を出て,発車した車のサイドシートの窓から
遠ざかった行くマンションを,私は見えなくなるまで自分の目に焼き付けていた。
必ず奇跡を起こして再び此処へ帰って来ると胸の中で強く強く誓っていた。
その執念が叶ってか私はこの時の入院でも命拾いをした。
主治医やスタッフ周りの者が皆,この奇跡的な生還に驚き祝福してくれた。
そして私は,再び懐かしいあの場所に心を躍らせて戻ったのである。
neko